コラム

イベントレポート
眞島竜男「印象・琵琶湖」

松下みどり

1.

9月20日、眞島竜男さんのワークショップ「印象・琵琶湖」に参加した。

琵琶湖大橋を歩いて渡りながら、粘土で琵琶湖を作ろうという会である。

粘土で琵琶湖を作る、に参加者がピンときていないのがいい。

「見通しは無くて大丈夫ですよ、琵琶湖が語りかけてきますから」と眞島さん。

カルトン(画板)を首から下げ、カラフルな粘土を捏ねながら10名の団体がぞろぞろ歩く様子はかなり面白い。

雨予報だったが、曇り空は明るくて、雨は降らずに最後まで持ってくれた。

2. 粘土がカラフルで迷う(撮影:松下みどり)

お昼過ぎに「道の駅 びわ湖大橋米プラザ」に集まった参加者へ、スチレンボードのカルトンと、水色、ピンク、緑、グレーの紙粘土が配られる。

琵琶湖に面したテラス席で自己紹介をして、好きな色紙粘土を好きなだけ開封し、カルトンへ並べたり捏ねたり違う色の粘土を混ぜたりし始めた。

同じ色だけを固めた人や、綺麗に混色させた人、ざっくり色を混ぜ合わせた人、もう形を作り始めている人など、各々が色の塊を捏ねながら眞島さんを先頭に琵琶湖大橋に向かって歩いていく。

3. 眞島さんのシャツは遠くから見ると粘土のようなピンク色をしている(撮影:沢田朔)
4. gogo(撮影:松下みどり)
5. (撮影:沢田朔)

眞島さんは橋の上から琵琶湖をぐっと覗きこんだり不意に立ち止まって粘土を触ったりしていた。

私も歩きながら粘土を触ってみるが、あまり手を動かすことができないないまま橋のてっぺんを目指して進んでいく。琵琶湖大橋はアーチ状のかたちをしているのだ。

6. ぴゅう(撮影:沢田朔)

そんなこんなで登頂。

7. ついたーー!(撮影:松下みどり)

大津側から琵琶湖大橋を進むと10分程度で「頂上」に到着する。

参加者はなんとなくバラけつつ、思い思いに粘土を捏ね始める。

以前、守山側(反対側)から頂上まで歩いたことがあるのだけれど、そのときよりも早く着いたように感じた。実際には橋のてっぺんは米プラザ側からの方が近いらしい。大きな船が通れるように、底の深い場所と橋の頂上の位置を合わせているらしい(琵琶湖博物館の「第32回企画展示 湖底探検Ⅱ-水中の草原を追う-」展で知った記憶)。

ここでしばらく「のんびり」する。

粘土は乾くのが早いので、たまに水をかける。湿っていた方が形が作りやすい、と眞島さんが言う。

乾きかけた粘土は細かいクズになってぽろぽろ落ちてしまう。

参加者も水を適宜粘土へ混ぜつつ形を作る。

我々が歩く歩道からは琵琶湖の北半分が見えた。

岸に囲まれているのに果ては見えず、小さな波が切れ間なく続く大きな水たまりである。時折通過する船が水面を引っかいていた。

厚い雲の下ほど水面の色が濃く見えた。空模様が反射している。

道の駅の近くに島があることに気づいた。反対側の岸には大きな木が迫り出している。

琵琶湖や、それを囲む山も空も全部が青く見えて、私は粘土の色と風景の固有色は関連づけないことにした。橋(足元)の下にとてもたくさんの水があること、水面や陸地のリズム、風なんかを、辻褄を合わせることはあまり考えずに描写するように形を作ったり、色を引き伸ばしたり混ぜたりする。

曇り空はどんよりしているようで地味に眩しい。

車がビュンビュン走る。その度にメロディーロード(乗用車が通ると音楽が鳴るしくみの溝が彫られた道路)から聞こえる「琵琶湖周航の歌」が断片的に聞こえる。ごく稀に綺麗な音を奏でる車もいて、「うまいやつがいる」と誰かが言った。

8. 水入れすぎてびっちょびちょになっちゃった(撮影:沢田朔)
9. (撮影:沢田朔)
10. (撮影:沢田朔)
11. めっちゃ揺れる橋(撮影:沢田朔)
12. (撮影:松下みどり)
13. (撮影:沢田朔)

全員が四苦八苦しながら全く違う琵琶湖を練り上げている。

気取らず、過度に交流を促されることもなく、全員が琵琶湖のことを考えている。

それがとても心地よかった。

「煮凝って(にこごって)」きたので移動しましょうか。

30分ほど経った頃、「まだやりたい人いますか?」と眞島さんが声をかけて、橋を渡り切るために移動を始めることになった。

琵琶湖や琵琶湖大橋について雑談しつつ、粘土を触りつつ橋を下る。

全員が好きな早さで歩くので、最後尾の時は先頭を歩く人が豆粒くらいに見えた。

14. (撮影:沢田朔)
15. 途中で立ち止まって琵琶湖をさわるなど(撮影:松下みどり)
16. こねこね(撮影:松下みどり)
17. 市の境界があった(撮影:松下みどり)
18. 水草が目立つようになってきた プカー(撮影:松下みどり)
19. 渡り切ったぜ(撮影:沢田朔)

20. コンビニで小休憩。ゲリラ展覧会(撮影:松下みどり)

その後、喫茶店にて休憩。

21. 窓辺の席ですわ〜(撮影:松下みどり)
22. お休憩ですわ〜(撮影:沢田朔)

以下、眞島語録(前半)

見通しは無くて大丈夫ですよ、琵琶湖が語りかけてきますから。

なんか違うな、こうじゃないな〜

もう一回、ゼロから…

むしろこういう風が近いかな、

すごい頑張ってるんですけどね、頑張ってるんですけど難しくて

皆さん、向こうへ行きたい人は行って大丈夫ですよ

ちょっと歩いて気分を変えてみるか

今日は土曜日だからすごい船がでているな

もう14時ですね

私はちょっと煮詰まって、「煮凝って」きたのでちょっと歩きます

まだやりたい人いますか?

じゃあちょっと歩きましょうか。ゆっくり準備してください。

私は結構水入れてますよ

良いですねえ

ちょっとわかんなくなってきた、琵琶湖のこと。

悩みながら

悩んでもしょうがないんだよな

悩むことじゃないんだけど

あー素敵ーみんないいなー

私の印象がわからなくなってきたからな

色いろいろ用意したのよかったな

私も混ぜようかな

展覧会始まってる (コンビニ休憩)

いい色だよね

以上

今回いちばん困ったりしながらワークショップを楽しんでいたのが眞島さんなんじゃないだろうか。

形を探して作っていく過程の迷いなんかを声や態度に出していく姿勢が参加者にも伝わって、それが参加者の肩の力を抜いてくれたように感じる。

私はAIR大原というスペースを運営しながらワークショップを企画したりしているのだが、参加者が地域の小学生が中心ということもあって、「わかりやすく」手順を定めて、私が目指したい作品の形がなんとなくあって、参加者に自由に思うように作ってほしいと願いつつ、脱線しそうになると参加者を誘導してしまう。これでは塗り絵帳に塗ってもらうのと同じではないのか?等、しっくりくる形が見つからずに模索中である。

今回のワークショップは、参加者といっしょに制作することと、周りに気を配りつつワークショップの進行をすることをとてもいい空気で両立させることができていた。とても勉強になる。

喫茶店で、コーヒーフロートやカレーを食べる面々。その中で誰よりも早く眞島さんが橋へと戻って行った。素敵だ。

少ししてから参加者も店を出る。

「橋に付いているライブカメラに映りたいね」と話をしていた。

ETCゲートを通過した少し先が撮影ポイントだ。写真は1分おきに撮影されているらしい。

「佐川美術館行きたいな」と話す参加者に「行ってきたらいいじゃない」と促すスタッフ。

自由度が高すぎて形があるようでないワークショップだ。琵琶湖みたい(不定形の水が溜まった表面を琵琶湖の形として見ているんだから)。

23. 再出発〜 全ての粘土をひとつの塊に圧縮する人がいる(撮影:沢田朔)
24. 琵琶湖オフショ(撮影:松下みどり)
25. こねつつ歩く人々 ピンクの粘土だけで琵琶湖を作る人。ひときわ眩しい。(撮影:松下みどり)
26. (撮影:松下みどり)

眞島さんも別行動中だし、ここらでちょっと本隊から外れて別ルートへ行ってみる。

もしかして湖岸に降りられるのでは、と先ほど喫茶店へ向かう道中気になっていた。

27. go~(撮影:松下みどり)
28. (撮影:松下みどり)

思った通り湖岸に出た。

粘土を琵琶湖の水で保湿するべく、橋の足元へ降りてみる。

こういう場所には人糞があったりするのだ。怖い。

29. 踏まなかった(撮影:松下みどり)
30. 貝殻や水草が打ち上げられていた 生臭い水辺の臭いがする。(撮影:松下みどり)
30.5. 一方その頃琵琶湖大橋上にて
31. かっけえ(撮影:松下みどり)
32. こうである(撮影:松下みどり)

水を吸った紙粘土は表面がぬるぬるする。

色の境界が少しぼやけてバキバキのマーブリングのようだった琵琶湖が柔らかい表情になった。

粘土に給水ができたところで、集団に合流するため橋へ戻る。

33. 待ってえ(撮影:松下みどり)
34. 一方の琵琶湖 さざなみが立っている(撮影:沢田朔)
35. (撮影:松下みどり)
36. (撮影:沢田朔)

再びてっぺんの展望台のようになっている場所へ戻ってきた。

ここで5分、10分ほど粘土を触り、米プラザへ帰る。

この頃にはもうほぼ全員の形が出来上がっていた。

37. (撮影:沢田朔)

米プラザへ帰還。

全員の作った琵琶湖を並べてみる。

ひとりずつどうやって作ったかを発表した。

38. (撮影:沢田朔)
39. (撮影:沢田朔)

最後に、後半の眞島語録と作った琵琶湖についての参加者のコメントを掲載する。

私、展望台に、
じゃお先に、行っています

うん、いいかな

いいだろう、これで。まあまあだ。

(笑)すごいピンクの人がいる

悩むな、また潰すとな、時間がな

なんかまだ違うんだけど、いいや!またやろう

いろいろ思うところはあるのだが、今回はこれで

さっき踏んでましたよね、

参加者「踏んでみました」

さあ、じゃあ行きましょうか。行きましょうー

水辺の岩場とか行ってみたいですけどね

京都タワーでやりたいな

タワーの上でやりたいな

別府タワーでやりたいな

絶妙に低いんですよ

街が模型に見える

後は飛行機とか、飛行船とかやりたいけどな

海とか フェリーとか

港の印象を作る だから見れるのはせいぜい10分くらいですけどね、

あー下り楽だな

さあ、展覧会やって見ましょう

楽しかったこと、なんかあれば

(ひとりずつ発表)

琵琶湖を見ながらでも、橋渡ったり琵琶湖と距離があった

琵琶湖の色 水だけどグレー

道中で他の参加者と粘土を交換

行きでほぼできて、帰りに触ったらパキパキ割れ出して楽しかった

歩きながら、散策しながら

橋 揺れながら

視覚的にも感覚的にも

ストレートな風景の印象

スケール感

どこを切り取って表すか

作る時の欲を感じた

面白かった

見えたものを作って

帰りはいろいろやってみたら硬くなって

まとめて踏んづけたり サッカーボールみたいに

目に見えた印象 橋

水入れながら ぬるぬるして面白かった

ずっとぬるぬるしてて

ここが湖、ここが鴨とかいた ここが道路、ここが山

水が多い 水多めにつけて

山、雲 ここら辺だけ色が違う 船

島 あそこ行きたいっすよね

水面に船が移動した跡

全然完成していない…

眞島さん「居残りいいですよ!」

山のところを表現しようとした 粘土を継ぎ足すか、削るか 裏から補充して行ったら

山の裏 想像の域なので できたからよかった

感覚を持ち合わせていない自分を見つめ直すことができた

北と南で北が水が多いので水の量の多さを表したかった

ここら辺が山で、雲をこう持ってきて

これはよくわからないけど、なんかないとつまらない

水をすごいぐしゃぐしゃして作って

喫茶店から練り直して作った

これが今回の印象ということなんだろうな、ということです。

琵琶湖の印象と、自分の中の印象が混じっているのが面白かった

怪我もなく

よかったです。

写真、撮りましょうか。

41. (撮影:沢田朔)
42. (撮影:松下みどり)
43. (撮影:沢田朔)
44. (撮影:松下みどり)
45. (撮影:松下みどり)

おしまい

  • イベント概要
  • 眞島竜男ワークショップ 印象・琵琶湖
  • 日時|2025年9月20日(土)12:00~16:30ごろ
  • 集合場所&時間|JR堅田駅改札前に12:00(集合後、徒歩とバスを利用して移動します。琵琶湖大橋をわたり周辺を散策します。)
  • 解散場所&時間|JR堅田駅前16:30ごろ(予定)
  • 参加費|無料(ただし、交通費は自己負担となります)
  • 人数|5名程度(要予約)
  • 持ち物|手が拭けるもの(ウェットティッシュ、タオル、ハンカチなど)、ペットボトルの水(飲用&粘土をこねる用)
  • アーティスト|眞島竜男
  • 主催|一般社団法人HAPS
  • 参加者5名、アーティスト・関係者6名

松下みどり

プロフィール

松下みどり

画家、AIR大原主催
愛知県生まれ
京都芸術大学大学院 美術工芸領域日本画分野 修了
2024「そのこえはもっととおくからくる」 AIR大原Gallery 京都
2025「国際的非暴力展#SUM_MER_2025」 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA 京都
2025年11月3日〜24日、AIR大原1周年記念展「やまびこ」開催
2025年11月8日、9日、AIR大原1周年記念祭「カムバック!紅葉祭」開催 あそびにきてね〜